これまで、試料準備のための単結晶合成装置の導入、鉄欠損型磁鉄鉱について単結晶X線構造解析のための試料の準備、おなじく鉄欠損型磁鉄鉱粉末を試料とした粉末X線回折データのリートベルト解析、銅をドープした磁鉄鉱(粉末試料)の合成と結晶構造解析、及び鉄と近い性質を持つチタンの酸化物を使った予察的研究を実施した。鉄欠損型磁鉄鉱粉末試料についてのリートベルト解析では電子密度分を高精度で決定することは難しいが、従来推定されるのみであった陽イオン分配を広い組成範囲で決定することができた(2009年度中に国際会議で発表予定)。銅をドープした磁鉄鉱については、今回初めて充分に低い温度(100℃以下)で粉末試料を合成し、これについてのリートベルト解析を行う事に成功している。これまで、低温では銅イオンが八面体席のみを占めるであろうことが高温での実測からの外挿により予想されていたが、今回の結果によりそれが示されたといえる(公表予定)。 チタン酸化物は磁鉄鉱とは異なる結晶構造を取るが、磁鉄鉱と同様に陽イオン過剰/欠損型の構造を取ることがある。又、紫外線照射により表面に正孔と余剰電子が発生し、光触媒活性を示すことが知られている。これについての単結晶X線回折実験を行い、第一原理に基づく電子軌道計算の結果と照合したところ、両者は良く一致した。これは光触媒活性を示す物質について電子構造の変化の最初の観測例となった(2008年度国際会議で発表済)。今後の研究への影響の観点から言えば、これは単結晶X線回折の手法によりごく僅かな電子構造の変化を検出する事が可能である事を確認したことに留まらず、本申請による研究(実測)に内在する測定誤差の定量的な評価ともなっている。
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