平成22年4月から平成23年3月の作業と及び平成20年4月からの研究を総括する。平成20年度から21年度には鉄欠損型磁鉄鉱及び銅をドープした磁鉄鉱についてのリートベルト解析を予察的に実施していたが、平成22年にはそれらを継続せず、鉄欠損型磁鉄鉱とチタンをドープした磁鉄鉱の単結晶試料を調製し、それらの精密構造解析を実施した。 鉄欠損型磁鉄鉱、チタンドープ磁鉄鉱の両者とも結晶構造内の四配位陽イオン位置(A席)は鉄によって完全に占められており、陽イオンの欠損とチタンの占有は六配位陽イオン位置(B席)にのみ見られた。 鉄欠損型磁鉄鉱でのB席鉄イオンの原子変位量の異方性は欠損量の増加に伴い有意に減少し、格子振動モードとVerwey転移の様態(磁化率の変化)との相関が確認された。しかし、B席周辺の電子密度分布には有意な変化は観測できず、電気伝導率の変化との相関を示すには至らなかった。 磁鉄鉱でのB-0距離は他のイオン性結晶内でのFe-0距離に比較して有意に短いことが何度か報告されている。チタンドープ磁鉄鉱についてチタンドープ量と原子間距離との相関を精査したところ、Tiを2%ドープした試料でB-0距離の急激な増加が観測された。本研究で確認された原子間距離の急激な変化は、B席を占める鉄原子の電子状態と電気伝導性との相関を明確に示すものである。 これらの研究成果は平成23年の国際結晶学会にて発表される。
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