研究概要 |
酸性降下物等により森林土壌からのカルシウム流出が増加すると、カルシウム欠乏が動植物の生育に悪影響をおよぼすことが懸念されている。本研究では、水に溶解しやすく土壌に保持されにくい有機錯体カルシウムの存在割合が高くなれば、カルシウム流出が加速される可能性に着目し、「森林土壌から渓流に流出する溶存態カルシウムは、カルシウムイオンとして存在するのか、それとも可溶性有機錯体として存在するのか」を、野外観測と室内実験に基づいて判定し、その結果の地球化学的意味を解明することを目的とする。 平成22年度は,まず,筑波山渓流水中のカルシウム濃度の範囲(0.02-0.4mM)における,カルシウムイオン選択性電極の繰り返し精度を求め,0.01mMで20%,0.1mMで11%,1mMで7%との値を得た。従って,有機錯体カルシウムをカルシウムイオンと区別して定量するためには,有機錯体カルシウムが全溶存カルシウムの分析誤差(10-20%)以上の割合で存在する必要があるという目安が明らかになった。 次いで,この目安を満たすモデル溶液(pH6.78-6.74,クエン酸0.1mM,全溶存カルシウム0.05-0.3mM)を調製し,カルシウムイオン濃度の実測値と理論計算値(Mineqlを利用)を比較したところ,全溶存カルシウム0.25-0.3mMでは理論値とほぼ一致する(誤差+3%から+9%)のに対して,0.05-0.1mMでは理論値と一致しない(誤差+50%から+180%)ことが明らかになった。カルシウムイオン選択性電極の原理を検討したところ,電極液膜にリガンドとして含有されているリン酸基を含むイオン交換体が,試料溶液中のカルシウム有機錯体からカルシウムイオンを奪う働きを持つため,とくに低濃度条件において有機錯体カルシウム濃度が過小評価され,カルシウムイオン濃度が過大評価されると考えられた。
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