研究概要 |
酸性降下物等により森林土壌からのカルシウム流出が増加すると、カルシウム欠乏が動植物の生育に悪影響を及ぼすことが懸念されている。本研究では、水に溶解しやすく土壌に保持されにくい有機錯体カルシウムによりカルシウム流出が加速される可能性に着目し、「森林土壌から渓流に流出する溶存態カルシウムは、カルシウムイオンとして存在するのか、可溶性有機錯体として存在するのか」を明らかにすることを目的とする。 有機錯体カルシウムの定量法として,カルシウムイオン選択性電極がカルシウムイオンは検出し,有機錯体カルシウムは検出しない現象を利用することを計画した。すなわち,全溶存カルシウム濃度とカルシウムイオン濃度の差を有機錯体カルシウム濃度とする方法である。この方法の妥当性を確かめるために,モデル溶液で実験を行ってきた。前年度までに,クエン酸-カルシウム錯体溶液中カルシウムイオン濃度の実測値が,0.1mM以上では理論値と一致するのに対して,0.05mM未満では理論値の1.5倍以上となることが問題となった。カルシウムイオン選択性電極の原理を検討したところ,電極液膜にリガンドとして含有されているリン酸基を含むイオン交換体が,試料溶液中の有機錯体カルシウムからカルシウムイオンを奪う働きを持つため,とくに低濃度条件においてカルシウムイオン濃度が過大評価され,有機錯体カルシウム濃度が過小評価されると考えられた。 そこで今年度は,クエン酸よりもカルシウムとの結合能力が高いEDTAについて検討した。EDTA-Ca錯体溶液中カルシウムイオン濃度の実測値は,0.05mM以上では理論値と一致するのに対して,0.03mM以下では理論値の1.5倍以上となった。EDTAでは,実測値と理論値が一致する濃度範囲がクエン酸よりやや広いものの,クエン酸と同様に低濃度でカルシウムイオン濃度が過大評価される問題が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から,カルシウムイオン選択性電極法では,低濃度条件で有機錯体カルシウム濃度が過小評価される,という問題が明らかになっている。この問題を克服して渓流水など野外観測試料を分析する方法として,(1)カルシウムイオンの標準添加,(2)凍結乾燥などによる濃縮,を検討する。
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