多重ガンマ線放射化分析法を用いて地球科学試料中のイリジウムの超高感度分析を行った。イスア中のイリジウム濃度結果から、ISUA形成期と同時代に地球-月系に生じた天体事象である、後期重爆撃現象(Late Heavy Bombardments)に関する知見を得ることが出来た。後期重爆撃は約36億年ほど前の太陽系の初期段階で地球や月に多くの小天体が飛来し衝突したもので、月の主要なクレーターを形成した要因となった。但し地球上では惑星活動が月よりも盛んに行われたため、その形跡を今日見ることは出来ない。本研究においてイリジウム測定を行った、グリーンランドで採取された最古の堆積岩試料であるイスアは後期重爆撃期と同時期に地球表面で形成したものである。今回の測定を通してイスア中にイリジウムの異常な濃縮を見出した。これは地球表面上の後期重爆撃の痕跡であるとみなすことが出来る。得られたイスア中のイリジウム濃度に基づき後期重爆撃を再現してみると、従来考えられてきたように衝突物質は小惑星群ではなく、高速で飛来し、イリジウムの含有量の少ない彗星であったと結論を得た。これらを論文投稿、学会発表を行った。特に共同研究者により記されたICARUSの論文はNew Scientist誌ヘレビューされ反響を得た。 また地球試料の標準試料とされる標準岩石中のイリジウムの濃度分析を試みた。測定試料はデンマークのKT境界試料である、FC-1及びFC-2また南アフリカ共和国の地質調査所で作成された白金鉱物の標準試料SARM-76である。21年度に試料を入手しイリジウムの多重ガンマ線放射化分析を行う予定であったが、原子炉の予定外停止があり、年度中には試料調整に留まった。
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