研究概要 |
多重ガンマ線放射化分析法を用いて地球科学試料中のイリジウムの超高感度分析を行った。 地球試料の標準試料とされる標準岩石中のイリジウムの濃度分析を試みた。測定試料はデンマークのK/T境界試料であるFC-1及びFC-2また南アフリカ共和国の地質調査所で作成された白金鉱物の標準試料SARM-76である。FC-1、FC-2はともにデンマーク・バルト海沿岸から採取されたK/T境界試料から作られている。白金鉱石より作成されたSARM-76は高いイリジウム含有量(108±10ppb)を有するが100ミリグラムの試料それぞれの値のバラツキが大きかった。一方K/T境界試料より作成されたFC-1,FC-2はSARM-76の半分以下の含有量(33±0.9ppb、34.5±1.0ppb)であり統計的には不利であるにかかわらず、試料ごとのバラツキは驚くほど少なくどの測定試料もほぼ同じ値を示した。この原因としてイリジウムの存在状態から考察を行った。イリジウムは化学的にとても安定で金属単体或いはオスミウムとの合金で存在している。SARM-76の粒度分布を調べると10μm以上の粒子が50%あるが直径10μmのイリジウム金属の重量は12ngあり100mgの測定試料中に含まれるイリジウム約100から200mgに対してこのようなイリジウム粒子の存在は大きな影響を与える。しかしFC-1,FC-2では地球に衝突した隕石中では同様なイリジウム粒子で存在していたが、地球衝突時に蒸発し金属微細粒子や化合物になり、そのために試料中に均一に存在するようになったと結論付けた。この成果はMTAA-13国際会議で発表し、併せて投稿中である。この研究の枠組みの中からデンマークのP.Appel博士らと放射化分析法を用いた新しい環境科学分野への応用による共同研究が住友財団環境助成金(700万円;平成21年10月-23年10月)の助成を得て発足したことを付記する。
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