本研究における課題は高速点火レーザー核融合に必要な高密度プラズマ生成の物理を明らかにすることである。レーザー核融合爆縮過程はプラズマ流体としての流体現象のみならず、レーザー伝搬、プラズマ中の非局所電子熱輸送、輻射輸送等のエネルギー輸送が密接に絡んだ系である。そのため、これらを解析するためには数値シミュレーション手法が必須であり、多岐に渡る物理過程を統合的にシミュレート出来る爆縮流体コードの開発を行っている。特に、爆縮における非局所電子熱輸送は未だ計算手法が確立しておらず、解析が容易でない。申請者はフォッカープランク方程式をベースに運動論的な非局所電子熱輸送計算ルーチンを開発し、モデルの妥当性を確かめるために米国ロチェスター大学レーザーエネルギー学研究所との共同研究を行った。ロチェスター大学は日本の大阪大学レーザーエネルギー学研究センターと同様に直接照射型レーザー核融合を推進しており、直接照射型爆縮実験に関しては世界をリードし、詳細な実験データを保持している。申請者はロチェスター大学で行われた爆縮実験、及びピケットパルスと呼ばれる高強度レーザーパルスに対応した条件で非局所電子熱輸送計算を行い、実験と比較した結果、良い一致を見た。これにより非局所電子熱輸送のモデルの妥当性を検証した。また、核融合点火に用いられるクライオジェニック爆縮において、レーザー吸収領域から非局所的に輸送される高速電子により、燃料球がどれだけ先行加熱されるかを見積った。これらの成果により、非局所電子熱輸送の素過程を定量的に解析できる計算スキームを確立することが出来た。本研究はH20年度の研究計画に組み込まれていたが、共同研究先のロチェスター大学の都合により、1年遅れのH21年度に実施したものである。本研究成果により統合的な爆縮シミュレーションの準備が整った。
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