蛋白質の結晶作成に向け、最初の第一歩はレーザー集光位置に蛋白質部分子を捕捉・集合させることである。このような分子捕捉、つまり溶液中において分子を空間的に自在に操作することは、永年の化学者の夢であった。 有力なアプローチの一つは、数10μm〜数10nmの微粒子を操作できる、光ピンセットである。 本年度は光ピンセットを用いたヘムタンパク質(ミオグロビン、シトクロムc)およびアミノ酸の捕捉・集合(分子マニピュレーション)について研究を行なった。 ヘムタンパク質の重水溶液中に、cw Nd3+ : YAGレーザー(1064nm)を集光すると、焦点位置に直径2μmのヘムタンパク質の集合体が速やかに形成された。分子量が同程度のリゾチームの場合、より小さな集合体を形成するのでさえ数時間以上要した。 これらタンパク質の集合体形成時間の違いは、タンパク質中の発色団の有無が関係しているのであろう。 すなわち、ヘムタンパク質は、YAGレーザーとの2光子吸収により、捕捉されやすくなったと考えられる。 一方、アミノ酸の場合でも、迅速な集合体形成が確認され、液中のアミノ酸クラスタ-を捕捉することにより集合体が形成されることが明らかとなった。 このように、ヘムを有した比較的小さなタンパク質や、アミノ酸の様な低分子有機化合物の分子マニピュレーションに対しても、光ピンセットが有効であることがわかった。
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