研究概要 |
超音速分子線発生装置で生成した気相クラスターをイオン化すると、種々の新奇イオン種を効率よく発生することが出来る。その際、質量分析法と赤外分光法とを結合して新開発した物質構造解析手法を活用して、反応中間体イオンに相当する新奇イオン種の非古典的結合構造を分光解析し、量子化学理論計算手法改良に資する実験的指針を提供する。また、その反応中間体イオン種の特異構造に関係する振動励起・電子励起を利用した新しい光誘起反応制御法を開拓する。 本年度の主な成果は以下の通りである。 1.[Benzene-(Methanol)_n]^+(n=2,3)の赤外スペクトルを新装置によって2200~3800cm^<-1>の広い範囲に亘って観測し、新たに観測した2200~2400cm^<-1>領域の振動バンド解析を行い、量子化学計算と合わせてn=2体においても、σ-complex型の構造が形成されていることを明らかにした。 2.プロトン付加型水クラスターH^+(H_2O)_nの水和ネットワーク形態が内部エネルギーに依存することを調べるためアルゴン付加体の赤外分光解析を実践し、特に大サイズ(n=21以上)について3000~3600cm^<-1>の水素結合バンド群および3700cm^<-1>領域の末端OH基に関する詳細解析を行い、水素結合ネットワーク構造形態が内部エネルギーに強く依存することを明らかにした。 3.アセトン2量体の光イオン化に伴う異性化反応ダイナミクスについて、中性2量体の基底電子状態から光イオン化によって垂直イオン化後、最終安定構造のイオン種に至る過程を探索する目的で、VUV光イオン化検出赤外分光計測を行った。その結果、2量体イオン内の水素(プロトン)移動によってエノール型カチオンが生成することを見出し、量子化学計算を用いて異性化反応経路の解析や最安定構造の解析を行った。
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