本研究課題では、グラフェンとカーボンナノチューブの酸化または浸食に伴う炭素ナノマテリアル材料の機能化および劣化機構に関して以下に掲げた3つの領域で量子化学分子動力学(MD)シミュレーションを行った。 a)グラフェンフレーク中の格子欠陥の形成とその移動過程 b)炭素酸化物および窒素酸化物による欠陥を含むグラフェンの浸食作用 c)種々の異なる直径に対する開端もしくは末端が酸化された単層カーボンナノチューブの自己閉端プロセス 領域a)に関して、密度汎関数強結合法(SCC-DFTB法)及び密度汎関数理論(DFT)計算を用いて、グラフェンフレークが系中から1原子が取り除かれたことに由来する欠陥を有する時、非平面スピロ異性体が最安定構造であることを突き止めた。またSCC-DFTB法に基づく高温条件下でのMDシミュレーションを行い、上述した欠陥が温度上昇に従って中心から外側へと移動する様子を観測した。この過程は効果的な欠陥修復の道筋であることを示唆している。さらに、スピロ化合物の二面角に由来する構造特性や室温での安定性はらせん構造のデザインおよび合成の障害をはらんでいる。この研究から新規の炭素ナノ構造体を予見することができた。 領域b)において、炭素酸化物のうち一酸化炭素は欠陥部分と容易に反応して安定なエポキシ体を形成することによって、六角形ネットワーク構造が部分的に治癒することを見出した。一方で二酸化炭素の場合には、欠陥部分の酸化や一酸化炭素の脱離といった異なる様相を観測した。窒素酸化物については、グラフェン表面の窒化および酸化がより速やかに始まり、COx、NO、CNといった化学種の解離が起こった。 領域c)については、高温条件下でのMDシミュレーションにより末端が酸化された単層カーボンナノチューブの場合には、酸素原子を含む官能基部分が最初に脱着し、残った炭素鎖がたやすくキャップ構造を形成する様が見て取れた。
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