量子化学計算が隆盛な今日にあっては、分子軌道法(MO法)が一般的である。原子価結合法(VB法)は系を構成する各原子上の軌道を考え化学的直感に直接訴えるが、計算は非常に複雑化しやすい。逆にMO法は計算機上での処理は比較的し易いが、分子全体に非局在化した軌道を考えるので、伝統的な化学結合の概念とは必ずしも合致しない。この半世紀間の量子化学の発展は電子計算機の発達とも密接に関わっており、今日のMO法の隆盛に繋がったものと理解できる。しかし、VB法における化学結合の理解法は現代においても魅力的であり、化学に即した理論としての輝きは褪せておらず、MO法対VB法の構図は今日でも尚議論の的である。それでは並列的である二つの概念を結びつけることは不可能なのだろうか。 本研究課題では、これまで我々が開発してきた、双直交な第二量子化演算子表現に基づく共鳴構造理論を基にして、その直接的発展を図っている。同時に、この解析法を下敷きにしつつ、既存の方法とは本質的に異なる新規理論を産み出すことを目標とし、以下の二つの方向から研究を進めている。 (1)これまでに我々が開発してきた、双直交な第二量子化演算子表現に基づく共鳴構造理論を基にして、その直接的な発展を図る。実際の化学現象に対する応用計算を行い、技術的な側面に関しても検証することで、その利点や問題点を明らかにする。 (2)(1)の解析法を下敷きにしつつ、既存の方法とは本質的に異なるMO法とVB法をハイブリットした新規電子状態理論の構築を目指す。 研究課題としては、解析法による応用計算を行ってその理論的性質を確認・検証しつつ、それに基づいた新規理論の構築へ順次重点を移行していく形で遂行する。
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