以下のように、金属と有機薄膜の界面電子構造と構造について検討した。また有機スピン素子の作製を行い、磁気抵抗測定を試みた。 1. 有機・金属界面電子構造の測定 強磁性金属と有機半導体界面でのキャリアー注入障壁を紫外光電子分光法により測定した。ペンタセンとパーマロイについては、ホール注入障壁は0.1 eV程度と低いことがわかった。これはパーマロイの仕事関数が約5 eVと高いことを反映していると考えられる。 2. 金属表面上の有機半導体蒸着膜の薄膜構造・分子配向測定 金属表面上に作成した有機半導体膜の構造や分子配向を調べ、スピン伝導性との関連を調べることを目的とし、薄膜構造・分子配向の測定法を検討した。 測定手法には、X線構造解析と赤外反射吸収分光(IRRAS)を用いた。パーマロイ上に作成したペンタセン薄膜の構造と分子配向を調べた結果、ペンタセンはパーマロイ上で「薄膜相」と呼ばれる構造多形をとり、分子は金属表面に対して立っていることがわかった。IRRASによる試行測定では、Au(111)面上に蒸着したビスベンゾペンタチエノアセンについては、分子配向と膜厚の関係を詳しく調べることができた。 3. 有機スピン素子の作製・測定 これまで、多くの有機スピン素子では強磁性金属層と有機半導体層を順に蒸着した「縦型」素子で研究が行われてきたが、本研究では、「良く既定された界面」を作ることができる「横型」素子の開発を試みた。強磁性金属としてパーマロイを選び、微細加工技術により、ギャップ長20-50 nmの電極を作製した。有機半導体にはペンタセンを選び、蒸着してを磁気抵抗測定を試みたが、素子抵抗が高いため測定できなかった。
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