昨年度は、金属と有機半導体の界面電子構造の測定手法の開発を進め、角度分解X線光電子分光法(ARXPS)のデータを、多変量解析(Target Factor Analysis)により解析することで、深さの関数として内殻準位を調べられることを見いだし、汎用のXPS装置を用いて実証した。 本年度は、データ精度の向上を目指してARXPS用に設計されたThermo Scientific社のTheta Probeを用いた。この装置では、試料を傾けずに23°から83°の範囲で角度分解測定が行なえる。このことから、試料の不均一性や試料の時間変化によるデータの劣化が防げる。また、単色化したX線源による高分解能測定が可能であるなど、格段のデータの質の向上が期待される。しかし、従来のARXPSでは信号の強度のみを解析するが、本研究ではエネルギープロファイルも解析する。そのため、Theta Probeの設計時には想定されなかったエネルギー軸の高い精度が求められることになる。そこで、角度範囲や試料位置などの測定条件をひとつずつ変化させながらデータ解析を繰り返し、測定条件を検討した。その結果、角度範囲で40°から70°のデータのみが解析に耐えられることがわかった。また試料の高さを100μmのオーダーで精密に合わせて測定する必要があることもわかった。 このようにして求めた最適条件で、Alq3やTPDなどの有機EL材料として広く用いられている典型的な有機半導体分子とAu、Ag、Al、Caなどの金属表面との界面電子構造を調べた。得られた結果を、薄膜の膜厚を増やしながら表面のエネルギー準位を光電子分光法で調べるという従来の方法で得られた結果を比較した。その結果を詳しく解析したところ、これまで有機半導体の電子準位の基準として用いられてきた「真空準位」という概念を再検討する必要があることがわかった。
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