昨年までの研究により、有機固体の表面とバルクでは、エネルギー準位に0.3eV程度の差があることが明らかになってきた。これまで適切な実験手法がなかったため当該分野で30年以上にわたって議論されてきた課題に、確定的な実験データを提出することになった。さらにこれを推し進め、表面とバルクにエネルギー差が生じる原因の探査を進めた。 これまで、光電子分光で検出される表面とバルクのエネルギー準位差が生じる原因としては、(1)光電子放出過程後に残された正イオンが周囲の分子の静電分極により安定化されるエネルギーが表面とバルクで異なるため、という静電分極モデルのみが提案されてきた。本研究では、最近の研究動向を慎重に検討し、それ以外にも(2)表面電気二重層の影響、(3)極性分子が自発配向することにより生じた静電ポテンシャルなども、エネルギー準位差の原因となりうると考え、これらを検証する実験を行った。 まず、分子構造・薄膜構造が類似であり、誘電率のみが大きく異なるペンタセンとフッ素置換ペンタセンを比較することで、(1)の静電分極の寄与が0.2-0.3eV程度あることを明らかにした。一方、表面電気二重層の大きさが分子配向により異なることに注目し、配向の異なるペンタセン薄膜を作り分け測定した結果、両者に大きな差異はなく、(2)の表面電気二重層の影響は少ないと結論した。一方、(3)の極性分子の自発配向については、Alq3とプロピル基を導入した誘導体で巨大表面電位の符号が異なることに注目し、分子の自発配向の影響が0.1eV程度あることを明らかにした。
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