地球惑星大気の放射を担う分子の分光学と反応を担う分子の素過程に関連する諸量を算出する分子計算システムと、結果を活用して大気実課題を研究する大気計算システムを、具体的応用課題に取り組みながら構築することを大きな目標としている。 本年度は、温暖化等への寄与が疑われる酸素分子-水分子錯体(O2-H2O)の存在量が、気圧などの大気パラメータにどのように依存するか、地球全体で錯体はどこに多くあるいは少なく分布し、それが季節によりどのように変化するかのシミュレーションを行った。 また、分子計算課題として、酸素分子だけでは赤外線を吸収しないが、水と弱く結合することで初めて赤外線を吸収する分子振動の理論的研究法について検討した。もともと禁制なO2の振動遷移、非調和性が本質的な水の高次倍音・錯体の分子間振動及びそれらと分子内振動との結合音領域の赤外吸収強度の計算する上での困難点を検討した。窒素分子-水分子錯体(N2-H2O)の分子内および分子間振動の理論的取り扱いについて、核の感じるポテンシャル面の高精度計算と多極小ポテンシャル面上での多次元振動の量子計算を試験した。これらのため高精度分子計算用の計算環境整備を行った 大気化学計算課題として、地球上層大気(上部成層圏下部中間圏)におけるイオン分子化学反応について検討を行った。またH2O錯体スペクトル検出研究に使用するACE衛星観測のデータ検証を行った。メタンやCOの観測でも20%以下の精度が出ており、錯体検出を試みる衛星データとして使用できることを確認した。そのほか、「地球惑星における同位体分別科学」に関する研究会を行った。Rudy Marcus氏(Cal. Tech.1992年ノーベル賞受賞)、Jim Lyons氏(UCLA)に御講演いただき、当該分野に関する意見交換を行った。
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