研究概要 |
短パルスレーザー励起(100fs,800nm/400nm,10^<14>W/cm^2)による,アルコール,エーテル類からのH_3O^+脱離反応を調べ,その機構を明らかにした. 2-プロパノール(CH_3)_2CHOHのTOFスペクトルには,m/z=19にH_3O^+による信号が観測された.高質量側にテールを引いたピーク形状から,寿命が350ns程度のm/z=45の準安定イオン(CH_3CHOH^+)を中間体としてH_3O^+が放出されることが分かった.重水素置換体からはH_<(3-n)>D_nO^+(n=0,1,2,3)が観測され,H_3O^+脱離前に水素マイグレーションが十分に進行していることを示している.H_<(3-n)>D_nO^+の生成分岐比から,OH基のH(D)は比較的保持され,残りの4つのH(D)はほぼ統計的に選ばれOHサイトに転位し,H_3O^+を生成することがわかった.(CH_3)_2CHOH,(CD_3)_2CDOD,および(CD_3)_2CHOHから生成するH_<(3-n)>D_nO^+のスペクトルの形状は互いにほぼ一致し,脱離速度には重水素置換効果がないと結論される.一方,量子化学計算(B3LYP/6-31+G(d,p))ではCH_3CHOH^+からH原子が転位してH_3O^+脱離過程(C_2H_2...H_3O^+)に至る反応経路は,分子内水素転位による遷移状態が律速段階であり,脱離速度にD置換効果が明確に観測されることが予想された.この相違は,H_3O^+脱離経路と競合し,高速かつD置換効果が非常に小さい電子状態の緩和過程の存在を示唆している.このことを明らかにするためには,中間体CH_3CHOH^+の高分解能レーザーによる分光学的実験が有力である.
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