研究概要 |
平成22年度は,強レーザー場イオン化を用いた以下の2つの研究を行い,それぞれ新しい知見を得た.(1)重水素化エタンを用いたエタンジカチオンの準安定解離:重水素ラベルしたエタンCH_3CD_3を合成し,近赤外強レーザー場イオン化によりエタンジカチオンから生成する水素分子イオン種(H,D)^+_n, n=1,2,3および水素分子脱離イオンC_2(H,D)^<2+>_2をTOF質量分析より測定した.スペクトルの解析から,水素分子イオン(H,D)^+_2,(H,D)^+_3および水素分子(H,D)_2のH/D分岐比を決定した.その結果,(H,D)^+_3と(H,D)_2ではH/D混合割合が高いという共通点があることを見出した.一方,(H,D)^+_2ではH/D交換割合が低く,H_2,D_2が多く生成された、このことは,エタンジカチオンが分子内水素マイグレーションを経てC_2H^<2+>_2…H_2錯体構造をとり,H_2とH^+_3の脱離経路に分岐することを示唆している.実際に,本研究を論文発表(J.Chem.Phys.134,064324(2011))した後,ドイツのグループの理論の論文(J.Chem.Phys.134,114302(2011))によりこのことは裏づけられた.それに対して,H^+_2は強レーザー場においてH/Dの交換よりも速い速度で脱離していることが明らかとなった.(2)ギ酸ダイマーの強レーザー場イオン化反応:ギ酸ダイマーの強レーザー場イオン化により,プロトン化ギ酸(HCOOH)H^+からのH_3O^+生成反応を見出した.脱離反応速度が数100ナノ秒の準安定解離反応であり,(HCOOH)H^+からの異性化・脱離反応経路に反応障壁が存在することを示している.量子化学計算により,HOCOOH^+からHCO…OH^+_2への異性化において反応障壁が存在することを示した.また,ギ酸ダイマーには,クーロン爆発による信号も見られ,水素結合ダイマーが解離せずに2価イオン化されることを見出した.
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