生体システムを扱う分子シミュレーションでは、多体相互作用を含む分極ポテンシャルの開発が望まれている。本研究では、核酸を対象として分極力場の開発を行っている。 核酸のヌクレオチドモデルについて、分極一電子ポテンシャル最適化法を用いて、多中心分極率の決定を行った。モデルが、より大きなシステムの分極を再現するかを検証する目的で、三つのヌクレオチドを含むモデルの計算を試みた。計算モデルは、CCCGGGの中央コア構造を持つDNA二重螺旋のX線結晶構造解析の原子座標を用い構築した。水素原子の座標は最適化計算によって決定した。 多中心分極率を求める計算では、分子表面にテスト電荷を置いて、その位置を変えながら分子表面の分極一電子ポテンシャルを計算していく。3つのヌクレオチドを含む分子では、計算量が膨大であり、現在、CCCに関する計算が終了したのみである。開発しているプログラムは、もともと小型の分子を想定して、コーディングを行っていたので、かなり細かなサンプリングを行っている。原子93個を含むCCC分子に適用した場合、テスト電荷を置く場所は809点に上った。比較的計算が容易なB3LYP/6-31+G^*を用いた計算でも、1点の計算を行うには、約4時間がかかる。初年度に購入したコンピュータは4台あり、同時に本計算に利用できるCPUの合計は8である。単純に計算しても計算を終えるには17日程度かかる。実際には経過時間もあるので、すべてのデータを揃えるのに一か月以上を要した。現在、分極一電子ポテンシャル最適化のプログラムを、CCCのような大きな分子に適用できるよう次元を上げるなどの改良を行っており、まだ多中心分極率の結果は得られていない。テスト電荷のサンプリング数の妥当性の検討も今後の課題である。
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