生体システムを扱う分子シミュレーションでは、多体相互作用を含む分極ポテンシャルの開発が望まれている。本研究では、核酸を対象として分極力場の開発を行っている。 平成22年度は、分極一電子ポテンシャル最適化プログラム(POPFIT)を、大型分子にも適用できるように変数の次元を上げる改良を行った。また、周辺プログラムの拡張・整備も行った。POPFITでは、分子内誘起双極子間および分子内誘起双極子-点電荷の影響を取り込むことができる。三つのヌクレオチドを含むモデル分子(pGpGpGとpCpCpC)の量子化学計算を行い、改良したプログラムを用い、分極項パラメータの決定を行った。モデル分子の構造は、タンパク質データバンク(PDB-ID : 1ZF1)より得たもので、H原子を最適化している。点電荷(0.1e)下における分子の計算では、B3LYP/6-31+G^*を使用した。量子化学計算には、Gaussian 03を用いた。 分子内誘起双極子間および分子内誘起双極子-点電荷の計算では、近接する原子間において相互作用をダンピングする必要性があるが、小型分子ではシンプルなダンピングモデルでも良好な結果が得られることが分かっている。分子内誘起双極子の効果は、結合を形成している原子間(1-2)では1/10にダンピングし、その他(1-3以上)は含めた方がよく、分子内点電荷-誘起双極子の効果は全く含めない方がよいという結果であった。同様のダンピングモデルをpGpGpGとpCpCpCに適用したところ、量子化学計算から求めた参照の分極一電子ポテンシャル(点電荷による静電ポテンシャル変化)をよく再現する原子分極率パラメータが得られた。パラメータはH、C、N、O、Pの五種類でよく、偏差は10%程度であった。pGpGpGとpCpCpC別に最適化を行ったが、類似した値に収束しており、塩基の違いがあっても同一のパラメータの使用が可能であると推測される。
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