生体システムのような不均質な混合系の分子シミュレーションでは、分極項を含むポテンシャルを使用する必要性があると考えられる。生体システムの動的構造を理論的に解明するためには、分極モデルポテンシャル(PMP)の開発が望まれる。本研究では、分極-電子ポテンシャル(POP)最適化法用い、巨大分子である核酸を具体的な対象としてPMPパラメータを決定した。決定したパラメータが、量子化学計算より求めた相互作用エネルギーをどの程度再現するかを検証した。 三つのヌクレオチドを含むモデル分子(pGpGpGとpCpCpC)を用い、PMPパラメータの決定をおこなった。モデル分子の構造は、タンパク質データバンク(IZF1)より得たもので、H原子を最適化した。PMP関数は、静電(ES)、レナード・ジョーンズ(VDW)、分極(PL)項よりなる。ES項は、ESP最適化法で、PL項はPOP最適化法で各パラメータを求めた。POP最適化には、大型分子用に改良した自作のプログラムPOPFITを用いた。VDW項は、ペアポテンシャルで使用されてきた値を基本的に用いた。参照とする分子の量子化学(QM)計算には、B3LYP/6-31+G*を使用した。 生体内では、リン酸基を含むヌクレオチドはマイナスにイオン化しており、しばしば、対イオンとしてNa+が近接している。Na+近接部分はかなり分極が誘導されると推定される。そこでヌクレオチド分子表面にNa+が近接した場合の数十点の相互作用エネルギーをPMPとQMで求め比較した。pCpCpC-Na+系の回帰式は、y=1.00x-0.37で、R^2は0.98であり、PMPの再現性は良好であった。相互作用エネルギーは-93から-211kcal/molの範囲にあった。9kcal/mol以上の差が出るポイントは数か所あるが、いずれもES値のバラツキが大きく、ESP最適化で求めた点電荷パラメータに原因があると推定された。Na+が近接する場合、分極エネルギーは最大で-27kcal/molにも上り、核酸のシミュレーションを行う場合は、分極項を含むポテンシャルを使用する必要性があると結論された。
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