本研究の目的は、赤外・ラマン分光法、量子化学計算、X線回折測定等を組み合わせて、生分解性高分子の結晶構造中に見られる弱い水素結合と高分子のラメラ構造との関係を明らかにすることにある。 具体的には1.P(3HB)とP(3HB-co-3HHx)中のC-H…O水素結合の構造(C-H結合の長さ、H…Oの距離、C-H…O水素結合の強さ)を赤外ラマン分光法、X線回折法(小角散乱法を含む)、量子化学計算法を併せ用いて明らかにすること、2.C-H…O水素結合が高分子の高次構造安定化に果たす役割、C-H…O水素結合とラメラ構造形成との関係、さらには高分子の熱的挙動、結晶化のメカニズムとC-H…O水素結合との関係を明らかにすることである。 平成20年度の続きとして3HHxの割合を0~12mol%の範囲で変えたもの、さらにP(3HB-co-3HHx)では、3HHxの側鎖にCH_3(CH_2)_2基を持つが、これをCH_3(CH_2)n(n=0、1、2、4)と変化させたものを用意し、それらの赤外スペクトルの温度変化測定(室温から融点以上まで)を行った。前年度に行った帰属をもとに結晶部分に起因するバンドとアモルファス部分に起因するバンドの温度変化を比較検討した。それにより、nの数が0と1のものは融点近傍までその結晶構造を保っており、融点の極近傍で一気にアモルファスとなるのに対し、n=2および4では温度の上昇とともに低い温度からその結晶構造が崩れていくのが確認できた。また、側鎖の長い共重合体の割合が増えるほど室温でのアモルファスの割合は増加することが示された。それに伴いC-H…O水素結合は弱くなり、その熱挙動はアモルファスが多いほど結晶構造は崩れやすい傾向にあることがわかった。バンドの帰属については、種々の共重合体とホモポリマーを用いて温度変化測定を行い、さらに量子化学計算を利用することで詳細に検討した。共重合体におけるX線回折パターンの温度変化測定からは、赤外スペクトルの温度変化測定の結果を支持する結果を得た。今後は、顕微赤外分光法、顕微ラマン分光法を用いて、空間分解能数~数十μmで振動スペクトル測定を行い、結晶部分、非結晶部分を分離してスペクトル測定し、構造変化を調べることを試み、CH…O=C水素結合の研究をより深めていく。
|