本研究の目的は、赤外・ラマン分光法、量子化学計算、X線回折測定(小角散乱法を含む)等を組み合わせて、生分解性高分子であるポリヒドロキシブタン酸とその共重合体の結晶構造中に見られる弱い水素結合(C-H…O水素結合)と高分子のラメラ構造との関係を明らかにすることにある。特にC-H結合の長さ、H…Oの距離、C-H…O水素結合の強さに注目した。バンドの帰属については、種々の共重合体とホモポリマーを用いて温度変化測定を行い、さらに量子化学計算を利用することで詳細に検討した。 その結果、共重合体においては、側鎖のCH_3(CH_2)_n基の部分をn=0、1、2、4と変化させ、それらの赤外スペクトルの温度変化測定(室温から融点以上まで)を行った。赤外およびラマンスペクトルに顕著に現れるC=O伸縮振動において、結晶構造に起因するバンドとアモルファス構造に起因するバンドを分離して、その温度変化を比較検討した。それにより、nの数が0と1のものは融点近傍までその結晶構造を保っており、融点の極近傍で一気に溶融するのに対し、n=2および4では温度の上昇とともに低い温度からその結晶構造が崩れていくのが確認できた。また、側鎖の長い共重合体の割合が増えるほど室温でのアモルファスの割合は増加することが示された。それに伴いC-H…O水素結合は弱くなり、その熱挙動はアモルファスが多いほど結晶構造は崩れやすい傾向にあることがわかった。量子化学計算では、P(3HB)のダイマーモデル化合物を用いて最安定構造を計算した。これにより分子間で互いにC-H…O水素結合を形成する構造がエネルギー的に最も安定であることが示された。
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