研究概要 |
本年度は、「熱揺らぎに基づくドラッグデリバリーの動的多核NMR解析」を引き続き実施した。特に薬物の「膜に垂直な方向の運動」、すなわち、「膜への結合」と「膜からの解離」の速度論的解析に焦点を当てて研究を行った。 抗がん剤・5-フルオロウラシル(5FU)を水中から卵黄ホスファチジルコリンの1枚膜リポソーム(直径100nm)に取り込ませた。膜に結合した(bound)5FUと水中に残った(free)5FUのシグナルを、パルス磁場勾配(PFG)^<19>F NMRを用いて、in situで同時計測した。PFGシグナル強度の減衰に対して、bound, free 2状態間の交換を考慮したBloch方程式の解析解を求めて、5FUの「膜への結合と解離の速度定数」を決定した。さらに、ペンタペプチド・エンケファリンについても^1H NMRを用いて解析を試みた結果、^<19>F NMRを用いた5FUの場合と同様、「エンケファリンの膜への結合と解離のキネティックス」、「膜への結合量」ならびに「膜のなかの拡散運動」を定量的に取り扱うことが可能となった。さらに、2種の薬物の結果を比較検討して、5FUやペプチドの「膜に垂直な」方向の運動と膜の熱揺らぎとの相関を議論することができた。本年度の成果は、NMRを用いて、ペプチド・タンパク質など広範囲の薬物の「膜への結合と解離の速度論的解析」や「膜のなかの拡散運動の解析」をin situで行うことができる可能性を示唆しており、今後の展開が注目される。
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