研究概要 |
有機トランジスタの研究開発において、ペンタセン前駆体の合成が注目されている。これは、塗布型材料の開発がこの分野で求められているからである。これまでに我々は、6,13-ジチエニルペンタセン(1a)が太陽光存在下で溶存酸素と光反応を起こし、酸素付加体2aが定量的(単離収率81%)に生成することを明らかにした。また、この酸素付加体2aの薄膜にUV光(254nm)を照射すると、ペンタセン1aが再生することを見出した。ペンタセン1aで高い半導体移動度(0.1cm^2 V^<-1> s^<-1>)が報告されていることから、この反応が効率的に進行する分子システムを開発できれば、環境に調和した有機トランジスタ作製プロセスを構築できる。本研究では、2-チエニル誘導体(1a)の代わりに3-チエニルペンタセン誘導体(1b)を合成し、チオフェン置換基の位置効果を調査した。ペンタセン1bから酸素付加体2bへの反応は、1aと同様に定量的に進行した。これらの反応は一次反応速度式に従い、速度定数は2.2×10^<-3> s^<-1>(1b)と1.7×10^<-3> s^<-1>(1a)であった。また、酸素付加体の単結晶X線構造解析を行った。両者とも類似構造が観測され、チオフェン環がペンタセン骨格と交差するように位置していた。また、ペンタセン骨格に架橋した酸素原子は二つのチオフェン環に挟まれていた。このため付加体1aでは、チオフェン環がわずかに歪んでいた。DFT計算で求めた生成熱を比較した結果、2bの方が9.0-8.5 kcal mol^<-1>安定であった。溶液中の光照射によってペンタセンの発生率を求めたところ、2bと2aで14%と44%の変換率を記録した。この結果は、ペンタセンの再生プロセスにおいて、分子内の歪エネルギーが発生率に影響を及ぼすことを示唆している。今後は、酸素付加体の歪エネルギーに注目して光変換システムの分子モデルを開発する。
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