研究概要 |
今年度は,昨年度に引き続きメカノクロミズムを中心に研究を行った.すりつぶし後の赤褐色粉末の固体ESRスペクトルを測定したところ,フェノキシラジカルとして妥当なスペクトルが得られ,着色体が開環ビラジカル種であることがわかった.2つのスピン間相互作用が比較的小さく,2つのスピン中心は互いに離れた構造をとっていると推測される.磁化率測定によりスピン密度を見積もったところ,約2-3%であることがわかった.また,N,N-ジアルキルアミノ基がメカノクロミズム発現に重要な役割を果たしていることは確かであるが,ジメチルアミノ基を有していても,挿入されるπ電子系がナフチル基であったりフェニルエチニル基である場合にはすりつぶしても色調変化が見られないこともわかった,この差異を明らかにするため,サイクリックボルタンメトリー(CV)法による還元挙動を精査したところ,メカノクロミズムを示す系と示さない系で大きな違いがみられることが明らかとなった.本系においてはCV法は単分子におけるジスピロ結合の開裂のしやすさを見積もることができるのであるが,メカノクロミズムを示す系はいずれも結合が開裂しやすいことを示す結果が得られた.しかしながら,単にジスピロ結合が切れやすいだけではメカノクロミズムを示す条件とはならず,粉末X線回折の測定結果からは,すりつぶしによってアモルファス相への転移が必要であることがわかった.すなわち,本系におけるメカノクロミズムは,1)単分子の性質としてジスピロ結合が開裂しやすい性質を有していること(CV測定により見積可能),2)すりつぶした時にアモルファスとなる柔軟な結晶構造を有していること,の2点が兼ね備わった場合に起こる現象であると結論づけられる
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