研究概要 |
遷移金属錯体で触媒される有機金属化合物と炭素求電子剤とのクロスカップリングは炭素-炭素結合の構築法として最も有用な反応の一つである。しかし,その触媒はパラジウム及びニッケルに限られ,これら以外の遷移金属錯体が触媒活性を示す例はほとんど報告されていない。ここで,9族遷移金属は10族遷移金属と異なり安定錯体がアニオン配位子をもちトランスメタル化から出発する触媒サイクルが可能である。また,酸化状態の変化,言い換えれば硬さ,軟らかさの変化と連動して配位数が変化する。このため,9族と10族の遷移金属錯体では,クロスカップリングの触媒作用と関わる特性に大きな違いがあり,配位子あるいは反応系を適切に選択することにより9族遷移金属触媒で初めて可能になるクロスカップリングの進行が期待される。そこで本研究では,ロジウム触媒を用いるアルキル求電子剤とアリール金属化合物,特にアリール亜鉛化合物との反応,すなわち,アルキルーアリールクロスカップリングを検討した。このロジウム触媒反応では,アリール亜鉛化合物のトランスメタル化に続いてアルキル求電子剤の酸化的付加がおこり,その後,直ちに還元的脱離が進行すれば,10族遷移金属では問題になるベータ水素脱離が抑制されると予想したが,ロジウム触媒でも副反応が優先することが明らかになった。この結果は,1)三価ロジウムからの還元的脱離の進行が遅い,2)酸化的付加体で出現する空の配位座がベータ水素脱離に利用され易いことを示しているように思われる。そこで次に,アルキル求電子剤に配位力のある置換基を導入し,その配位で空の配位座を満たすとともに,その置換基の電子受容性を利用して還元的脱離を加速することを考えた。また,その官能基の存在が,生成物の有用性を高めることができればさらに望ましい。この観点から,合成的な有用性をもつ配位性官能基としてホスホリル基を選び,ロジウム触媒アルキルーアリールクロスカップリングを検討した結果,ホスホリル置換アルキルアレーン類の新規合成を実現することに成功した。
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