研究概要 |
第三周期以降の16族元素(Ch=S, Se, Te)は、通常の2価の他に4価、6価を有し得るため、化合物群の多様性の観点から興味が持たれている。しかし、いわゆる超原子価化合物として、炭素配位子のみからなる4本の化学結合を有する化合物群(R_4Ch)は熱や空気・酸素等にも不安定であり、限られた系でしか性質や構造が明らかになっていない。また、5本の化学結合を有するカチオン種(R_5Ch^+)やアニオン種(R_5Ch^-)、およびそれらから誘導可能な6価16族元素化合物(R_6Ch)は、いずれも研究例が少なく、本質的・系統的理解が有機元素化学の分野において必要かつ急務と考えられている。 本年度の研究結果、極めて高純度の有機金属試薬を用い、注意深く合成条件を探ることで、電子供与性置換基を有するテトラアリールテルル化合物を合成、単離出来ることが明らかとなった。このことは、炭素配位子のみを有する超原子価化合物の合成単離には電子求引性基や環状配位子を用いることが必要と考えられていた従来の実験結果とは根本的に異なるものである。また特筆するべき結果として、芳香族置換基のパラ位にメトキシ基を導入したテトラアニシルテルルは、固体状態において通常は遷移状態として考えられていた四角錐構造を有することが明らかとなった。これは擬回転機構において三方両錐構造が必ずしも基底状態ではないということを実験的に初めて示した例であり、構造化学的にも興味深い知見といえる。現在はこの現象に一般性があるかどうかを実験的に検討するため、炭素配位子としての芳香族置換基のパラ位に各種電子供与性置換基を導入する検討を進めており、また理論計算を行い四角錐構造の発現機構を究明している。
|