研究概要 |
単一元鎖磁石とは鎖状錯体一つ一つが磁石として振る舞う化合物であり,21世紀初等に発見された最も新しい分子磁性体である.その合成に当たり,大きな基底スピン多重度と容易軸型の磁気異方性の導入・制御を目指した分子設計が行われてきたが,報告者は容易面型の金属イオンである高スピンFe(II)イオンを垂直に振れながら配置させることにより系全体としての容易軸を実現する方法に成功し,その物性研究を進めてきた.本年度はそのような物性を示す一連の錯体について,磁気特性が外因,特に取り込まれている溶媒分子の吸脱着により変化する現象の詳細の理解について検討を行い,解明を目指した.錯体系のバリエーションとして錯体構築に用いられていた有機配位子Hbpcaについてピリジン環の6位に種々の置換基導入を試み,新規に得られたHbpca誘導体を用いた一次元鎖錯体の合成,構造解析と磁気特性の解明を行った.いずれの錯体においても単一次元鎖磁石としての特性が観測され,容易面振れ配向型構造による容易軸構築が一般的に可能であることまでは明らかとしていたが,結晶溶媒の吸脱着にともなう磁気的振る舞いの変化に大きな差異が見られた.置換基が小さい場合,鎖間に形成される空隙は相対的に小さく,取り込まれている溶媒分子の個数も少ない.このため,結晶溶媒は抜けにくいか,抜けても結晶性を保持していることが粉末X線回折より明らかとなった.溶媒級脱着にともなう構造変化は可逆であり,磁気特性の変化も可逆であった.一方,置換基が嵩高い場合,空隙内に取り込まれる溶媒分子は多く,その脱離にともなう構造変化は大きなものとなった.そのため,結晶相からアモルファス相への不可逆な相変化が観測され,磁気的にも単一次元鎖磁石から常磁性体への変化が観測された.
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