研究概要 |
濃厚な水溶液中における尿素分子-金属イオンおよび尿素分子-ハロゲン化物イオン間構造に関する部分構造関数レベルの情報を得る目的で、塩化リチウムおよび塩化ナトリウムを含む10mol%尿素水溶液に対して、中性子回折、X線回折実験およびRaman、赤外吸収測定を実施した。 ^6Li/^7Li,^<35>cl/^<37>clおよび^<14>N/^<15>N同位体分率を変化させた試料を用いた中性子回折実験より、10mol%尿素重水溶液中におけるLi^+の水和構造について、最近接Li^+…0距離1.95(1)A、水和数5.2(1)を求めた。さらに、10mol%尿素重水溶液中におけるCl^-の水和構造について、最近接Cl^-…D距離2.27(1)A、水和数5.8(1)を得た。尿素分子が共存する濃厚水溶液中においでもLi^+およびCl^-の水和構造は、尿素分子を含まない水溶液中における水和構造を良く保持している事が明らかになった。一方、尿素分子のアミノ基周囲の水和構造は、LiCl水溶液中とNaCl水溶液中では異なり、尿素分子のN原子…最近接水分子の0原子間距離がLiCl水溶液中ではNaCl水溶液中に比較して約0.1A長い事が明らかになった。大型放射光実験施設SPring-8のBL04B2ビームラインに設置されている回折計による高エネルギーX線回折の結果によれば、LiClおよびNaClを含む10mol%尿素重水溶液中における水分子間水素結合構造は共に良く保たれている事が明らかになった。 尿素分子は、濃厚な水溶液中で周囲の水分子と強い水素結合を形成するが、共存するイオンの水和構造には大きな影響を与えない事が示された。
|