酵素や金属タンパク質の特異な機能は、それぞれのタンパク質の特有な構造により実現されていると考えられる。例えば、錯体化学的に極めて不安定と考えられる活性部位ですら、巧妙に設計されたタンパク質の3次元構造の中では安定に存在でき、構造変化により反応性が精密に制御されている。即ち、正確な3次元構造の設計・構築は新しい機能に繋がるものと期待できる。申請者は、新たな物質群の設計指針として、光学活性なα-アミノ酸と剛直なスペーサーを組み合わせた「拡張型ポリ(α-アミノ酸)」という概念を独自に提唱している。本研究では、新たな合成法、2次構造の構築方法を系統的に調べ、金属錯体を3次元的に配列させる合理的手法の確立を行っている。 本年度は昨年に引き続き、ビス(ピリジン)銀(1)錯体骨格を持つ拡張型ポリペプチドの合成を行った。α-アミノ酸部分として、従来のL-ロイシン、L-ノルロイシンに加え、L-イソロイシン、L-バリンを用い、銀(I)イオンの有無による構造の違いをX線回折により明らかにした。φ、ψの二面角はα-ヘリックスとβ-シートに対応する値に近く、銀(I)イオンと錯形成ことでジグザグ構造、らせん構造を形成したポリペプチドとなっていた。銀(I)錯体の三次元構造にはアニオンの影響が大きく、アミドのNHとアニオンとの水素結合を形成することで、結晶構造が安定化されていると考えられる。また、同じアミノ酸でも光学活性体を組み合わせることで、らせんとジグザクのように大きく二次構造を変えることが可能であることが明らかとなった。
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