研究概要 |
MPTのモデルとして、アルケンジチオラート型配位子、1,2-ジカルボメトキシ-1,2-エチレンジチオラートを用い、種々のモリブデン錯体を合成し、その共鳴ラマンスペクトルを測定し、配位子の電子状態について考察した。共鳴ラマンスペクトルにおいて、モリブデン6価モノオキソオキソ錯体のC=C伸縮は1542cm^<-1>に観測され、オキソ基がない錯体は1551cm^<-1>にυ(C=C)振動を示した。これは、強いπ受容体である酸素原子の有無によりジオキソ錯体のC=C結合が低エネルギー側に現れたと考えられ、ジチオレンのC=C部がLMCTおよびMo-S結合に大きく関与していることを表している。これらのv(C=C)振動数の値はこれらの結晶構造解析から得たC=C結合の長短と一致している。また、対称性を下げたモリブデン錯体の共鳴ラマンは測定できなかった。励起光により分解した可能性があり、スペクトルの励起波長依存性を今後検討する必要がある。そのデスオキソ型モリブデン錯体は、対称型錯体とほぼ同じ1545cm^<-1>にυ(C=C)を示し、四角錐構造では対称性低下の効果は見られないことがわかった。一方、モリブデン6価ジオキソ錯体は1520cm-1にυ(C=C)を示し、上で示した錯体との比較と同様に、モリブデン4価モノオキソ錯体の1537cm^<-1>よりも低エネルギー側であった。この結果も、結晶構造解析から得たC=C結合長の傾向と一致している。 以上の結果から、モリブデン6価錯体は4価錯体に比べ、より長く弱いC-C結合を持つことから、C-Cの多重結合性が減少しC-Sの多重結合性が増加していることが明らかとなった。つまり、6価錯体ではモリブデンージチオラート間のパイ電子非局在化の程度が大きい。ジチオレンとオキソ基との相互作用の大きさが水酸化反応に重要であることが示唆された。また、スルフィド錯体の合成にも成功し、各種分光法によって同定した。
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