酸素引き抜き酵素であるジメチルスルフォキシド還元酵素の初めての酸化型類似体(Mo^<VI>O(OR))を合成すると共に、同じ配位子を用いて酸素添加酵素(亜ヒ酸酸化酵素)の酸化型の類似体も得た。 これらの錯体は実際の酵素基質との酸素原子異動反応を再現できることを明らかとした。結晶構造解析にそれぞれの構造を明らかにした。さらに、共鳴ラマン測定の結果と紫外可視スペクトルの波形解析をおこない、酸化型構造の分子軌道を明らかとし、各遷移も帰属できた。また、Mo^<VO>からMo^<VI>O_2への再酸化過程を合成した化合物を用いて再現し、電気化学測定や反応速度論的解析から、この変換過程はET-PT-PT-ET型のプロトン共役電子移動を含んでいることを見いだした。 さらに、チオラト配位したモリブデン錯体にスルフィド基やセレニド基を初めて導入することに成功した。錯体の構造をマススペクトルや核磁気共鳴測定、計算によって推定した。種々のホスフィンとの反応を検討した結果、Mo^<VI>O(S)とMo^<VI>O(Se)錯体はその硫黄あるいはセレン原子を選択的に三級ホスフィンへ添加することが明らかとなった。これらの反応に対して速度論的解析を加え、原子移動反応がミカエリスメンテン型で進行することも見いだした。この反応機構はMo^<VI>O_2錯体による酸素添加の機構(2次反応)とは異なっていた。ハメットプロットをおこなったところ、正のハメット定数が得られ、リンと硫黄間に結合が生成してから、中心金属から外れる段階が律速であることを明らかとした。
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