研究概要 |
ヘムタンパク質はポルフィリン金属錯体を補欠分子としてもつタンパク質であるが,活性中心にある分子は"構造式としては非常に類似している分子"にも関わらず,その機能は非常に多岐に渡っている."構造式としては非常に類似している分子"がこのように多様な反応を担う事ができる理由は,その分子がおかれている精密にデザインされたテーラーメードの環境にある.このテーラーメードの反応空間はタンパクマトリクス,軸配位子,中心金属,ポルフィリン環の変形など,様々な要因の協同的働きにより創出されている.これらを模倣して鉄(III)ポルフィリン錯体におけるスピンクロスオーバー錯体の開発を行なってきた.この開発において重要なことは,非常に不安定なS=3/2の状態をいかに安定化するかに尽きる.この不安定種を得ることができれば,外部刺激によって,より安定な高スピンもしくは低スピン種へ比較的容易に変化させることが可能である.通常のスピンクロスオーバー錯体がbi-stabilityをもつ化合物であるならば、ヘムはmulti-stabilityを持つ錯体である.これらのコントロールは鉄d軌道とポルフィリンのフロンティア軌道との相互作用を巧みに操作することにより可能となる.そこで化学的に合成した環状テトラピロール類を用いて様々なスピンクロスオーバー錯体の創成を検討した.これらの分子構造,電子構造のデザインと分子配列のコントロールによって,通常とは逆の,低いスピン状態から高いスピン状態へ転移する逆スピンクロスオーバー挙動も見いだすことに成功した.また,物理的な圧力,電場,光など多くの外部刺激に応答する系があることが明らかになった.さらに,放射光を用いた電子密度分布解析により,その詳細なメカニズムを明らかにし,天然のヘムタンパク質の機能発現のメカニズムに関してフィードバックを行なうことができた.
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