研究概要 |
本研究の目的はヘムの持つpπ-dπの電子的な相互作用を最先端の結晶構造解析手法を用いて,直接的に明らかにし,機能性材料として応用することである.SPring-8やKEK,PF-AR等の高輝度のX線を用いる電子密度分布解析により直接的に電子密度およびスピン密度の両方を観測することを目的とした. 当該年度の研究の成果に関して以下に示す. (1) 電子配置のスイッチングを行なうポルフィリン類縁体鉄(III)錯体(ポルフィセン,コルフィセン,オキシピリポルフィリン等)の合成を行った.(2)合成したポルフィリン類縁化合物に種々の軸配位子を配位させ,^1H NMRおよび^<13>C NMRの温度可変測定を行い,Curie plotsをとったところ,スピン状態,電子配置が温度によって変化する化合物があることが明らかになった.(3)これらの錯体に関して,極低温においてEPR測定を行い,スピン状態の変化をEPRスペクトルにより確認した.その結果,スピンクロスオーバーだけでなく電子配置変換挙動を示す錯体があることが判明した. (4) 固体サンプルにおけるスピン状態変化の挙動を追跡するためSQUIDやMossbauerスペクトルの測定を行った.光応答性や圧力応答性に関してSQUIDにて追跡を行い,特に圧力応答性があることが明らかになった.(5)単結晶構造解析装置を用いて,前述の錯体の分子構造,結晶構造を明らかにした.電子配置変換と分子構造の相関に関して,知見を得ることに成功した. (6) 放射光(KEK PF-AR, SPring-8)において測定したデータを用いて電子密度分布解析を行なった.配位子場の対称性を変化させたことに伴い,鉄とポルフィリン類縁体のπ電子との相互作用が変化していることが明らかになった.この結果より,ヘム蛋白の機能調節のメカニズムに関連する知見が得られた.
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