研究概要 |
本研究計画では,生体分子コンプレックスをはじめとする広い意味での"錯体"の結合能を総合的に定量評価するための新しい方法論の創出をその研究目標としている.これまで,本研究では主としてキャピラリー電気泳動反応器(CER)を用いる"錯体"の解離反応挙動を追跡するための手法の開発に傾注してきた.これに対し,本年度はその逆反応,すなわち"錯体"の生成反応挙動を追跡するための新しい手法の創出を検討した.CERと同様,キャピラリー電気泳動(CE)分離プロセスを利用する広義の"錯体"の生成反応速度解析法を新たに考案した.試料の取り扱いの容易さやそのコスト,CEでの光学検出の容易さを勘案して,Fe(II)-1,10-フェナントロリン錯体([Fe(phen)_3]^<2+>)を解析モデルとして選択した.錯形成試薬(1,10-フェナントロリン,phen)を含む泳動緩衝液で満たしたキャピラリーに,サンプルプラグとしてFe(II)溶液を注入してCE分離を行い,このとき泳動時間の増加に伴うピークの増加として観察される[Fe(phen)_3]^<2+>のオンキャピラリー錯形成反応を解析して,その生成反応速度定数(k_1)を算出する方法を考案した.泳動緩衝溶液のpHを1.9として上述のようにCE分離を行ったところ,電気泳動図上に[Fe(phen)_3]^<2+>が現れたことから,予想通りキャピラリー内で錯形成反応が進行していることが分かった.また,泳動時間の増加に伴い,[Fe(phen)_3]^<2+>のピーク高さの増加していることが分かった.さらに,これを擬一次反応として解析し,k_1の算出を試みたところ,その値として2.3M^<-1>s^<-1>を得る事に成功した.
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