前年度までに、電気泳動の理論上は可能であることを確かめた、「異なる電気泳動移動度を有する複数のキャリアーを逐次的に作用させるEKC」の試作と評価を行った。まず、異種ミセルの組み合わせとして、構造及び選択性の大きく異なる脂肪族系のSDSとステロイド骨格系の胆汁酸の一種、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)の逐次置換法を検討した。その結果、理論に一致する濃度比で相互ミセルが等速度で進行し、再現性を保ちながら、基本的に2種のキャリアーの分配特性の線形加算となり、キャリアーゾーンの導入長さ比によって選択性が連続的に変化することが確認された。したがって、これらの分離結果は予想可能であることになり、実際に、個々の単独系ミセルの場合の分配特性を調べれば、導入ゾーンの長さの比を代入することで、得られる分離がシュミレーションにより大筋で予想がつくことが確認された。 一方で、キャリアーの分配の選択性の違いが大きいほど、組み合わせによって獲得される分離の選択性の幅が大きくなり、分離系の有用性につながると考えられた。ミセルへの分配は基本的に、溶質の疎水性に大きく依存するため、ミセル同士の組み合わせから、ミセルと荷電シクロデキストリン化合物キャリアーの組み合わせを検討した。荷電シクロデキストリン(CD)には、最終的にβ-cyclodextrin sulfobutyletherを用いた。CDに直接、硫酸基をつけたものは、試料の包接効率が低く、強い効果を出せないことがわかり、硫酸基とCD部間にリンカーのあるものが適当であったためである。結果は、SDSとSDCの組み合わせより、はるかに大きな選択性の幅を持てることが示された。ただし、荷電CDキャリアーの含有硫酸基数にばらっきがあるため、電気泳動移動度をそろえることができなかったことは課題であり、キャリアーの精製が必要である
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