我々のグループでは近年、通常化学的に安定であるシクロペンタジエニル配位子が、チタン上に配位した場合にはこれまでの常識では考えられないような多様な反応性を示すことを見出している。ところが同族のジルコニウム錯体では、これまでそのようなシクロペンタジエニル基の関与する反応は知られていなかった。これに対し本研究では、置換シクロペンタジエニル基を有するジルコニウム錯体において、金属ハロゲン化物を加えることによって、チタンの場合と同様な反応が進行することを見出した。 t-ブチル基の置換したシクロペンタジエニル基を有するジルコナシクロペンタジエンに対し、四塩化チタンを加えると、ジルコナサイクルのジエン部位とシクロペンタジエニル配位子とがカップリングし、対応するインデン誘導体が高収率で得られた。この反応ではシクロペンタジエニル基上の置換基のかさ高さが重要で、よりかさの小さな置換基の場合にはカップリングの収率が著しく減少した。また、インデニル配位子を用いても同様のカップリングが起こり、対応するフルオレン誘導体を得ることができた。この反応を低温で行うと、ジヒドロフルオレン誘導体が得られたことから、この反応の機構は、まずジエン部位とインデニル基との間で環化付加が起こり、引き続くβ水素脱離によってフルオレン骨格が生成していると推測される。 さらにこの反応を多環式ジルコナシクロペンタジエンに対し適用したところ、一連の多環式芳香族化合物を得ることに成功した。
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