平成21年度までに、poly(N-isopropylacrylamide-co-N-acryloyl-(5)-prolinol)をはじめとする新規光学活性熱応答性高分子の合成、ならびに、その水溶液中での相転移にともない出現する高分子疎水場に有機化合物が立体選択的に取り込まれる現象を確認した。本研究課題最終年度となる平成22年度では、これら高分子を炭素材にグラフトする手法を確立し、さらに、得られた修飾電極を用い、いくつかの基質の水中電子移動過程をサイクリックボルタンメトリー(CV)を用いて観察した。まず、代表的なリビングラジカル重合手法であるRAFT法あるいはATRP法を用いて、N-isopropylacrylamideおよびN-acryloylalaninolを、炭素材にグラフト重合させることに成功した。これらの修飾電極を用いて、ベンゾキノンならびにフェロシアン化物イオンの水中での電子移動過程をCVを用いて観察した結果、電極上の熱応答性高分子の相転移挙動に対応した温度効果が認められ、その疎水性に依存して、基質が電極上に濃縮、あるいは、電極上からブロックされる現象を見出した。さらに、ピロール部位を末端に有するpoly(N-isopropylacrylamide-co-N-acryloyl-(S)-prolinol)を新たに調製し、これを電解重合することで、光学活性熱応答性高分子グラフトポリピロール薄膜を調製することにも成功した。電極上に生成した薄膜は、その電導性を利用し、そのまま機能性電極として、上述の基質の濃縮あるいは排除効果を発揮することが認められ、立体選択的な基質濃縮効果についても端緒的な結果が観察されており、光学活性熱応答性高分子反応場を用いた水中電子移動過程の新手法を提供するものとして興味深い。
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