研究概要 |
分子性導体の主要な構成分子であるテトラチアフルバレン(TTF)誘導体と量子スピン系を与える多核遷移金属クラスター錯体を用いることにより,磁性と伝導性が強くカップルした新しい物質系の開発を行い,スピンエレクトロニクス材料としての可能性を検討することが本研究の目的である。 本年度は,常磁性金属イオンに直接配位することができるTTF系伝導体として,aminoethylthio-TTFから誘導されるシッフ塩基配位子を有するTTF誘導体であるHsae-TTFとNi(II),Cu(II)との金属錯体を合成し,さらに定電流電解法により部分酸化しラジカル塩の作製を行った。Hsae-TTFが金属イオンに配位した錯体は,Hsae-TTF二分子が金属に4配位平面四角形型に配位した中性錯体である。金属配位部分はTTF二分子に挟まれたサンドイッチ構造をとっている。この塩を定電流電解法により酸化することにより,[MII(sae-TTF)2]PF6(M=Cu,Ni,Pd)が得られた。錯体の構造は中性錯体同様,4配位平面四角形型であったが,中性錯体と異なり,TTF部位がスタックした構造を取っていた。組成比から、TTF部位は+0.5価の部分酸化状態であったが,この塩は電気伝導性は半導体であった。また磁性はCu(II)イオンが支配的な常磁性Curieであった。極低温では磁性イオン間に反強磁性的相互作用が存在したが,伝導電子と局在スピン間に強い相互作用は確認されなかった。そこで,配位部位をジエタノールアミンやアセチルアセトナートなどシッフ塩基配位子以外の部位へと変換した化合物を合成し,金属イオンとの錯形成を試みたが,金属錯体は得られなかった。これまで試みてきた系は,金属イオン周りの立体的柔軟性を確保するため,TTF骨格の一カ所に配位部位を導入したものであった。今後,錯形成能を改善するため,配位部位の導入箇所を増加させる必要があると考えられる。
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