本年度は、前年度までに作成したベシクルを反応場とする光誘起電子輸送反応系に触媒反応系を連結することによって、人工的な光エネルギー変換システムを構築するための研究を積極的に推進した。研究の結果、特に、白金分子触媒を用いる光水素発生系については、これまでに報告例のない新規なシステムの開発に成功した。すなわち、pH7.5の緩衝液中、内水相にアスコルビン酸ナトリウム、疎水場に増感剤となる1-ヒドロキシメチルピレンと新規に設計したアルキル鎖連結型白金(II)錯体を取り込ませたDPPCベシクル溶液を調製し、外水相にメチルビオロゲン(MV)を添加して光照射(>350nm)すると、水の還元が進行して水素の発生が確認された。16時間の光照射による触媒回転数は30、MV還元体から水素への変換効率は65%程度と算出され、いずれも水素発生の触媒に白金微粒子を用いた場合と比較して格段に向上した。さらに、水素発生効率に対する増感剤や白金錯体の濃度依存性を検討し、最適条件を探索するとともに、水素発生機構の推定を行った。本系は、従来の犠牲試薬を用いた光水素発生系とは本質的に異なり、可逆的な酸化還元反応を行う少量の電子供与体を還元剤として、光エネルギーにより水から水素を発生させるシステムである。また、ベシクルを反応場とする光誘起電子輸送反応系を用いた二酸化炭素の光還元系についても研究を継続し、光増感部位を連結したコバルト(III)錯体の設計と合成、およびそのベシクルへの取り込みと二酸化炭素還元機能の検討を行った。以上のように、本研究の目的である、植物の光合成の本質的な理解に基づく物質変換に有効な光エネルギー変換システムの構築に成功し、さらなる展開への手掛かりを得た。
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