【研究目的】本研究の目的は、物材機構に既存の強磁場固体NMR装置を利用して、従来のNMR技術では磁場強度が足りなかったために研究対象から除外または敬遠されてきた多くの元素、特に四極子核を高精度で観測し、本来NMRが得意とする非晶質物質の構造、特に触媒構造の解明に向けて応用することである。 【背景】従来の固体高分解能NMRは、磁石で発生可能な磁場が低かったために、感度と分解能の点で突出している水素核を含むほんの数種類の原子核だけを分析対象とせざるを得なかった。そのため応用分野も炭化水素化合物にほぼ限定的であった。しかし、20T以上の強磁場になると、アルミ、ホウ素、チタン、酸素など四極子核(核スピン量子数が1/2より大きい原子核)を含む多くの元素が新たにNMRで高精度に分析可能となる。 【主な研究成果】 物材機構の930MHz強磁場固体NMRを用いて、各種触媒において四極子核のNMR観測を行った。中でも、ポリオレフィン重合触媒のチタンNMR信号の観測に世界で初めて成功した。また、同時にエチレン重合を実施し、チタンの状態と触媒活性の間に一定の相関があることが分かった。オレフィン重合触媒において、触媒活性と原子レベルの情報との間に相関が見つかったのは、これが初めてのことである。特にチタンNMRの結果は、固体触媒であるにもかかわらず、チタンが触媒表面を高速で動き回っていることを示唆しており、誰も予想していなかった新発見である。実験データからは、触媒活性が高くなるほど、チタンの運動が遅くなっていることを読み取ることができ、今後の詳細な研究が期待される。
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