研究概要 |
本研究では、共有結合性の強い特異な配位形式を有する水銀に着目し、水銀を含む新しい酸化物を見出すことで、金属絶縁体転移、超伝導性、誘電性などの実用可能な機能を開拓している。特に、Aサイトに水銀を、Bサイトに5価の遷移金属を配置したパイロクロア型酸化物A2B207を中心に研究を進めている。試料合成は高揮発性の水銀の組成を保持するため、超高圧法より行っている。研究代表者らは、近年、約マイナス160℃で鋭い金属絶縁体転移を示す新規水銀パイロクロア型酸化物Hg2Ru207を超高圧法により合成し、また、H20年度には、Hg2Ir207の新規物質の超高圧合成を試み、これに成功した。この物質はマイナス271℃まで金属的な伝導と常磁性的な性質を示し、測定温度範囲で相転移は観察されなかった。Hg2Ir207が金属絶縁体転移を示さなかったのは第3遷移金属であるIrはより軌道の広がりが大きいためより金属性が強くなったためと推測した。本年度は、これを受けて、Irと同周期で第2遷移金属のRhでBサイトを置き換え、Hg2Rh207の合成を試みた。しかし、現状可能な高酸素圧下では、Rh5価を実現することは難しく、パイロクロア型のHg2Rh207を得ることができなかった。そこで、Hgと周期表で隣に位置するT1をAサイトとして、T12Rh207の高圧合成を試みたところパイロクロア型の単一相が得られた。これは、Hg2Ru207同様、約マイナス170℃で金属絶縁体転移を示すことが明らかとなった。この温度で磁性の大きな抑制があり、また、立方晶から斜方晶への構造相転移も観察され、温度ヒステリシスがあることから、一次相転移であることが示された。今後は、Hg-Re-O, Hg-Mo-O系にT1-Re-O, T1-Mo-O系も加えてさらに新規機能物質の合成を進める予定である。
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