二酸化炭素を鉄と水と反応させて炭酸鉄として回収し、同時に水素を発生させるプロセス(Fe+H_2O+CO_2→FeCO_3+H_2↑)について引き続き検討を行った。スクラップ鉄など各種鉄鋼原料を用いて反応速度データを収集し、比較・整理を進めた。一例として、クロム鋼を用いた場合はクロムによる不動態被膜形成によって反応が阻害されると予想でき、これらの結果をもとに、反応効率を高めるための前処理法や添加物についての検討を進めた。続いて、二酸化炭素固定化生成物である炭酸鉄の熱分解挙動を調査し、加熱速度や雰囲気(酸化/還元)による相転移温度や生成物の変化を確認し、一酸化炭素および酸化鉄材料へと変換する条件の指針を得た。炭酸鉄の分解反応については、単結晶X線回折法を用いて結晶構造変化の詳細な解析も行い、炭酸鉄結晶の0原子配列を基本的に維持したままFe_3O_4→α-Fe_2O_3とトポタクティックに脱炭酸することを明らかとした。磁鉄鉱の自形は{111}面で囲まれた正八面体であるが、炭酸鉄経由で{100}面で囲まれた立方体状の磁鉄鉱が合成できることから、材料としての活用が期待できる。さらに、昨年度までの研究で反応後の気相中に副生物として有機物が生成していると予想されたが、この1つがメタンであることが突き止められた。これは、二酸化炭素と生成水素が鉄の触媒作用により反応したものと考えられ、生成機構についての考察も進めた。メタンの濃度は気相全体の1%弱と微量ではあるが、C1化学の重要な原料であるため二酸化炭素を活用した有機合成に活用できる可能性がある。またホルムアルデヒドの生成も予想され、高分子合成原料供給法としての可能性が示唆された一方で、この反応により生成する水素を固体高分子型燃料電池の燃料として利用する際には白金電極触媒等の特性を悪化させるため(被毒現象)、生成量を抑える工夫が必要となることがわかった。
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