細胞膜表層上の糖鎖に対する糖結合性タンパク質の認識性に及ぼす糖鎖密度の効果、特に糖鎖のクラスター化がその認識性に重要であるベロ毒素、インフルエンザウイルスが認識する糖鎖を合成し、細胞膜表層をモデル化した固体基板上に精密に構築することを目的としている。 平成21年度は細胞表層に提示されている細胞外マトリックスとして重要なコンドロイチ糖鎖の伸長を触媒するコンドロイチンポリメラーゼ酵素の反応機構をコンドロイチンオリゴマーへの酵素の結合およびモノマー添加による伸長反応を一連の実験でリアルタイムにモニタリング出来ることを明らかにした。動力学的解析により、糖鎖末端への酵素の結合挙動は糖鎖末端の糖の種類(グルクロン酸かN-アセチルグルコサミン)により、異なること、また、触媒活性がオリゴマーの種類により異なることを定量的に解明できた。今後、この系においては活性部位近傍のアミノ酸残基の役割を明らかにする必要がある。 また、酵素反応の定量化として一分子計測を行うため、SPM力-距離カーブ測定を行った。その結果、チップに固定した糖鎖と、マイカ表面に固定した酵素との間の相互作用を一分子レベルで観察できることが分かった。また、反応基質を添加した際に見られる切断力ピークの距離のシフト値により、糖鎖伸長反応を観察できることを初めて明らかにした。その際、反応の起こるモノマーを添加したときのみピークのシフトが見られること、一定速度でチップを近づけたときのみ反応が進行していることを確認した。よって、定性的に一分子の糖鎖の伸長がSPM力-距離カーブ測定により追跡できることが分かった。ターンオーバー数などの動力学的解析をはじめとする定量的な議論が可能なようにさらなる条件検討をする必要があることなどの問題点も明らかにした。
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