研究概要 |
汎用生体触媒(基質適用範囲の広い酵素)であるリパーゼとカルボニル還元酵素を合理的変異導入あるいはランダム変異導入により進化させて高機能化するとともに、有用な光学活性化合物を不斉合成する目的で研究を進めたところ、以下の3つの研究成果を得た。(1)リパーゼの合理的進化:X-線結晶構造とメカニズムに基づいて、リパーゼの活性部位近傍に点変異を導入し、合理的にエナンチオ選択性を向上させた。本来リパーゼが苦手とする基質に対して触媒活性とエナンチオ選択性の両方を同時に向上させるために、287番目のアミノ酸残基と290番目のアミノ酸残基(イソロイシン)を順次、別のアミノ酸に置換した。その結果、触媒活性が約10倍、エナンチオ選択性が約50倍以上も向上した二重変異体酵素を取得することに成功した。これほど大きく触媒活性とエナンチオ選択性の両方を向上させた例は皆無であり、現在、その機構的検証作業を行っている。(2)カルボニル還元酵素のランダム変異導入による進化:ランダム変異導入とスクリーニングを組み合わせた進化分子工学的手法により酵素を進化させるべく研究した。ランダム変異導入は、error-prone PCR法により行った。96穴マイクロプレート中で菌体を一挙に振とう培養した後、基質(ベンゾイル蟻酸メチル)を添加して不斉還元反応させた。変換率は、オートサンプラーとオートインジェクターを取り付けたガスクロマトグラフを用いて効率よく自動分析した。現在までに、約2,500個の変異体をスクリーニングし終わったが、野生型酵素を上回る変異体酵素を見付けていない。現在、やり方を少し変えながら実験を継続している。(3)ジフルオロメチレン基を有する光学活性アルコールの不斉合成:カルボニル還元酵素を高発現する遺伝子組換え大腸菌を用いて、ジフルオロメチレン基を有するケトンを不斉還元することにより対応する光学活性アルコールを不斉合成した。光学純度は非常に高く、99%ee以上であった。生産性は極めて高く、200g/L程度の基質濃度でも変換率は100%に達した。
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