当該課題では、生体の透明領域である700-850nmの光に応答し、かつ水に溶けて水中で分子会合せずに単量体として存在する新規なフタロシアニン(以下Pcと略)色素を合成することを目的としてる。Pcは工業的に重要な青・緑色を示す色素であり、顔料・染料以外にも、近年ではコピー機・レーザープリンタ用光電荷発生体やCDR等の光ディスク用感光色素等の機能性色素としても実用化がなされている。こういう色素を水溶性にできれば、光電荷分離特性を利用した燃料電池用光触媒への応用が可能となり、太陽光と水から安定供給が見込める環境に優しいエネルギー源の獲得に結びつく。また光と色素で増感した活性酸素を癌細胞の破壊に用いるPDT(photodynamic therapy)では、感光色素であるPcを生体内に送り込むために、水溶性であることが要求される。さらに水溶性であれば、インクジェット技術との組み合わせにより多方面への応用が可能になる。 21年度は、従来の方法とは異なり、Pcの骨格に親水性の置換基を導入するのではなく、Pc錯体の中心金属として五価のアンチモンを導入し、かつ軸配位子として親水性の官能基を導入することにより、水溶液への溶解度の向上を試みた。既知の方法に従って、無置換Pcおよび周辺置換基としてt-ブチル基を有するPcの五価アンチモン錯体で水酸基を軸配位子に有する化合物を合成し、これを原料として濃硫酸に溶解し、冷水で処理することにより、新たな五価アンチモンのPc錯体を得た。この化合物は、溶解度は低いものの、純水に溶解することを見出した。これらの化合物を、元素分析、質量分析、赤外分光法等により、軸配位子に硫酸基を有する化学種であることを明らかにした。さらにこれらの化合物は純水中で著しく会合するものの、その主吸収帯は当初の目論見通り、710-730nmの領域に現れることを確認した。
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