溶液プロセスによるセラミックス薄膜の作製法であるゾルゲル法は、溶液を基板にコーティングして乾燥、焼成するだけで、数十〜数百ナノメートルの厚さのセラミックス薄膜が作製できるという特長をもっている。従来のゾルゲル法では、金属錯体が溶解した溶液が原料として用いられてきたが、本研究では、結晶性の金属酸化物や金属酸塩のコロイド水溶液を原料溶液として用いることで、従来の方法では得られないような微構造をもったセラミックス薄膜の作製を検討する。 まず、ゾルゲル法の原料溶液となるアナターゼ型酸化チタン結晶のコロイド水溶液の合成を検討した。既に合成しているチタン酸塩の透明コロイド水溶液を水熱処理することで、チタン酸塩をアナターゼ型酸化チタンに結晶化させることにより、酸化チタンの透明コロイド水溶液の合成に成功した。得られたコロイドの表面は、配位子や界面活性剤で修飾されておらず、この溶液をゾルゲル法に応用した場合、コロイドの組織化に起因したナノ構造をもつ薄膜が得られることが期待できる。さらに結晶性酸化チタンの壁をもつメソポーラス薄膜の作製への応用も考えられる。 また、層状チタン酸塩コロイド水溶液を用いた場合、どのようなコロイドの組織化が起こるのかを調べるため、その溶液を用いて水熱合成法により酸化チタン薄膜を作製した。コロイドの積層と酸化チタンへのトポタクティックな構造変化により、ナノスケールの凸凹構造をもった薄膜が合成できたその薄膜の濡れ性を評価した結果、その凸凹構造に起因して、超親水性と超親油性の両方の性質をあわせもつことがわかった。ここで得られた知見より、この溶液を用いたゾルゲル法では、触媒反応や光触媒反応において活性の高い結晶面が表面に現れた薄膜が合成できることが期待される。
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