研究概要 |
本研究は,電子メディエーターや光捕集機能をもつ様々なカチオン性有機分子を層間にインターカレートしたナノ多層マンガン酸化物の作製と可視光応答型光電変換機能の発現を目的とする。平成21年度は,各種カチオン性界面活性剤をインターカレートさせることによって極めて大きな層間距離を有する層状マンガン酸化物複合体の合成を試みた。さらに得られた複合体の電子移動特性を調べた。 (1) 界面活性剤/マンガン酸化物複合体の作製 カチオン性界面活性剤(セチルトリメチルアンモニウムプロミドなど)と硫酸マンガンを含む水溶液のアノード電解によってカチオン性界面活性剤をインターカレートしたマンガン酸化物複合体薄膜を作製した。X線回折より,薄膜は高結晶性のバーネサイト構造を有しており,層間には界面活性剤が単分子層集積している。層間距離は約3nmと見積もられ,これまで合成・報告してきたいずれの複合体よりも大きい。層間距離が大きければ,マンガンサイトが孤立し,光励起した際の電子-正孔再結合反応が抑制されると考える。 (2) 界面活性剤/マンガン酸化物複合体のイオン交換および電気化学特性 上述により得られたマンガン酸化物の層間カチオンは液相の小さなカチオンとはイオン交換しないが,エタノールによって抽出されることが分かった。これは界面活性剤分子の疎水部同士の相互作用によって層間に固定されていることを示唆している。界面活性剤/マンガン酸化物薄膜被覆電極は良好な電気化学応答を示した。サイクル後も層構造は維持されたが,層間はすべて支持電解質カチオンに置換された。この現象は,(i)マンガン酸化物シートが電気化学的に活性であること,(ii)すべての層間スペースにイオンがアクセス可能であることを示しており,光電変換機能発現のための必要条件が満たされたと言える。 (3) 界面活性剤/マンガン酸化物複合体によるフェノール酸化 界面活性剤/マンガン酸化物薄膜を用いてフェノール(ヒドロキノン)酸化反応を行い,紫外可視吸収分光法によってその場観察した。ヒドロキノンはベンゾキノンに酸化され,反応終了後薄膜は層構造を失った。しかしながら,薄膜を正に分極して同様の実験を行うとヒドロキノン酸化が促進されるだけでなく,層構造が維持されることが分かった。この結果は,マンガン酸化物シートを介して層間のヒドロキノンから基板電極に電子が移動することを示唆している。
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