電子顕微鏡はナノメータースケールで構造を観察する有用な手法である。しかし、電子顕微鏡の分解能は十分でも、画像としてコントラストを生成しなければ観察はできない。無機材料は重元素から構成されまた結晶性であることなどから、吸収コントラスト・回折コントラスト・位相コントラストによって、観察可能なコントラストを生成することが容易である。ところが、高分子を始めとする有機材料や生体材料はその主な構成要素が軽元素であるため、電子顕微鏡で観察可能なコントラストを生成することが困難な場合がありナノスケールでの構造研究展開を阻害していた。 申請者は走査型透過電子顕微子顕微鏡高角度散乱暗視野法(HAADF-STEM)を用いれば、熱散漫散乱による電子の散乱を検出することで、つまり密度や温度因子の微小な差異を画像化できる可能性を提案した。実際、ブロックコポリマーを対象として、HAADF-STEM法により異種ブロックのコントラスト形成に成功した。更に。その実際に観察されたHAADF-STEMコントラストの解釈をマルチスライ法により検討した。その結果、炭素・酸素・水素のみを含むブロックコポリマー系については、主要なコントラストの成因は密度差であり、付加的に熱振動の効果が加わると考えられることを明らかにしてきた。つまり、HAADF-STEM法は密度差さえあれば画像形成に有効な方法であると結論できた。しかし、それのみにとどまらず、このことを利用すれば、ナノスケールの構造相の密度測定が可能であることが示され、更に密度が類似の系においては熱振動の違い、例えばガラス転移点の相対的な比較が可能となるとの予測ができた。
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