ADF-STEMコントラスト形成機構の整理と、高分子材料への定量的な応用法の確立を目指した。通常の電子顕微鏡法では観察困難な炭素・酸素・水素などの低コントラスト元素のみからなるプロックコポリマーを対象として、ADF-STEM法により異種ブロックのコントラスト形成に成功した。特に低角散乱を利用したLAADF-STEM法の有効性を確立した。観察されたADF-STEMコントラストを多数原子モデルによる像シミュレーションで検討した結果、主要なコントラストの成因は密度差であり、付加的に熱振動の効果が加わることを明らかにした。つまり、ADF-STEM法は密度差さえあれば無染色でも画像形成が可能であると結論できた。更に、このことを利用すれば、ナノスケール構造相の密度測定が可能であることが期待され、ミクロ相でのガラス転移点の解析が可能となるとの予測ができた。このことを実証するために、ミクロ相分離したプロックコポリマーのADF-STEMコントラスとの温度変化を精査した。高分子を構成する片方のブロックのガラス転移点を含む-180℃から200℃の間でコントラスト変化を定量化した。密度と温度因子を制御した試料として、低コントラスト元素のみから構成されたポリビニールフェノールとポリスチレンの共重合体や環状アルキル基を持つ新たなポリビニルエーテル系の共重合体を用いた。これらの試料系について、観察される像から密度データーを定量的に抽出する方法の開発を進めた。その結果、像コントラストは入射電子線強度変動で補正する必要があることと、昇温降温過程での試料厚さの変動を補正する必要があることが判明した。これらの補正を行うことで、実証的にADF-STEM法による試料中のミクロ相分離構造の密度変化を定量化する方法論を提示でき、ナノスケール構造相でのガラス転移点などの相転移の有効な同定方法として提案できた。
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